小野:さて、皆さんご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、今、すごい彗星が来ていて・・・ほうき星ですね。マックノート彗星っていうんです。あまり新聞に載ったりしていないので知られていないのですが、明るい彗星です。ただ、太陽の近くを通っているので、望遠鏡で見たりするのは難しいのです。今、南半球でオーストラリアなどが見やすいんですよね?日本でも、見るのは難しいですが、先週あたり、見えていました・・・。【ここで、プロジェクタトラブル】ちょっとお時間をいただいて・・・じゃ、飯島さん何か繋いでいてください。
飯島:わかりました。僕はですね、だいたい初めて会った方には、星とか写真のこととかはさておいて、「先生!身長何センチあるんですか?」って聞かれることが多いですね(笑)・・・実はちゃんと測ったことはないんですが、多分、188センチくらいあると思います。ちょっと前まで日本で一番大きかった岡山の望遠鏡の口径と同じくらいです。先日、その岡山の天文台へ行った時にミラーの前に立たせてもらって、「あ、ちょうど同じ!」と思って嬉しかったです。
今はカメラマンとして星の写真を撮っていますけれど、もともとは私は星を見るのが好きなんです。中学生くらいの時にジャコビニ流星群が来る、というので大騒ぎになったことがありました。その時に、「もしかしたら、写真に写るかも」と思って、叔父から一眼レフを借りたのが、「星の写真を撮りたい」と思った、そもそものきっかけになっています。そのころは、今みたいにデジカメではないし、フィルムも白黒ですが、感度のいいものはなくて、何より、星の写真を撮ろうと思ったら、自分でフィルムを現像しなければならなかったんですね。それで、写真の技術も自然と覚えることができました。写真を撮って、自分で現像して、自分で焼付けをして・・・ということになると、写真って意外とお金がかからないんですね。写真屋さんに出すと高いですけれど・・・で、そういう風にして、いろいろな写真が撮れるようになってくると、写真ってなかなか面白いなと思い始め、知らない間に今のような仕事をするようになってしまいました。
実際には、星の写真は実は、あまり商売にならなくて、ですね(笑)・・・需要もあまりないですし、でも、自分としてはそこから離れたくない、というか、離れるわけにはいかない、と思っています。普段の仕事では、インタビューの写真を撮ったりとか、企業のPRの写真を撮ったりとか、あるいは雑誌の取材で天文台に行ったりとか、いろいろな研究室に伺ったりとかの仕事が多いですが、そういう中で、山の方に出かけて行って星の写真を撮る時が、自分で写真を撮っていて一番楽しい時間です。【プロジェクタ、まだ復旧せず】
飯島:写真があればけっこう話すことがあるんですけれど、話すのは素人なので・・・しかも、こういうすてきな方が隣にいると、何をしゃべって良いんだか(笑)。
小野:いや、けっこうお上手ですよ?(笑)
飯島:いえいえ・・・
小野:今のお話ですと、もともと写真を撮っていて星を撮ってみようかな、と思ったのではなくて、星を見たくて写真を始めた、っていう感じなんですね?
飯島:そうです。星が見たくて、星の写真を撮り始めました。星を撮るようになって最初に面白かったのは、目には見えないものが写真には写せる、と言うことです。目では瞬間の光しか捉えられないですが、写真では、1分とか5分とか10分とか、光を蓄積させることができるので、目に見えないものが写真に撮れて、写ってくるんですね。そういうところが最初は面白くて。それから、天体写真というのは、昼間の写真とは違って露出を測るわけにはいかず、若干ですけれど普通の写真よりは難易度が高いような気がするんですよね。今ですと、普通の写真は自動で押せば写っちゃいますけれど、いまだに、星の写真はそういうわけに行きません。写真を撮る技術的なチャレンジの、し甲斐があると思っています。写真の雑誌にはだいたいフォトコンテストと言うページがあって、写真を始めたころは、自分の写真を投稿して、入選したりするとすごく嬉しかったですね。
小野:実は、先ほどお話したマックノート彗星。太陽にすごく近づいているために、私たちの地球から見ると、太陽の向こう側からやってきて、太陽のこっち側を通って、南半球で見えるようになって、また戻って行く、という軌道のほうき星です。ですから、ほうき星が遠い時も近い時も、常に太陽の近くに見えているので、ほうき星を見慣れている人は比較的探せるんですが、慣れていない人だと、双眼鏡でみてみようかな〜と思っても、太陽が視野に入ってしまって危険ですので、見るのが非常に難しいのです。いま、お見せしようとしている写真も、飯島さんが先週の日曜日にお天気がいい時に撮影したものですが、すごく微かに見えるので、ここだよ、と教えてもらえないとわからないかもしれません。
先ほどのお話にもありましたが、飯島さんはジャコビニ流星群の時に写真を撮ろうと思ったのが、天体写真を撮り始めたきっかけなんですよね?
飯島:そうです。中学生でしたね。
小野:その時は星は撮れましたか?
飯島:その時は、そもそも晴れませんでした。徹夜して待ち構えていたんですけれど、ずーっと曇っていたので、写真に撮る以前にアウトでした。 【プロジェクタ復旧】
小野:プロジェクター直りましたね! では、(マックノート彗星の)写真を見ていただきましょう。(写真A)これは14日の夕方ですね。撮影場所はどこですか?
飯島:場所は埼玉県の吉川市です。江戸川の堤防の上なんですけれど、実はこの雲の中に富士山があるんですよ。富士山と太陽とほうき星を3つ一緒に撮ろうと思って行ったんです。この日はとてもお天気が良くて、雲がほとんどなかったんですが、ここだけ雲があって、富士山は見えませんでした。土手の上なので散歩のおじさんとか歩いてくるんですけれど、「今日はダメですね〜」とか「富士山、見えませんね〜」とか言われて。でも、「いやいや、本番はこれからなんですよ」「何かあるんですか?」「いや、実はほうき星が・・・」みたいな話をしました。この日の昼間、太陽が雲に隠れたときに双眼鏡で見たら、青空の中にほうき星が見えたんですね。ものすごく明るい・・・確かマイナス5等星でしたっけ?
小野:そうですね、一番明るい時でマイナス5等星です。
飯島:宵の明星の金星よりも明るく見えるので、昼間の空でも余裕で見えたんですが、この写真の中でどこにあるかと言うと・・・ここですね。
小野:あの、、皆さん、心眼で見てください(笑)!!
飯島:見えないね・・・拡大できません?
小野:拡大ですか・・・ちょっと待ってください・・・・。(PCを操作する)
飯島:ほうき星って、夜の空にしか見えないくらい淡いもので、太陽と一緒に見えるなんてありえないと思っていましたが、生まれて初めて、こんなに明るいほうき星を見ました。最近で明るいのと言えば、ヘール・ボッブ彗星とか、その前だと百武彗星とか、明るくて大きい彗星がきましたけれど、やっぱり暗い空じゃないと写真には写らなかったのですが、普通の景色を撮るのと同じ露出時間で彗星の本体が写ってしまうというのは、ちょっと驚きでした。拡大できそうですか?
小野:大丈夫だと思います。
飯島:ズームアップ!!あ、少し白〜くアタマの部分が・・・。
小野:すいません、リハーサルをしていないので・・・ココですが・・・言われないとわからないですね?
飯島:白く、ぽつっと写っているんですが。立派に尾を引く状態では写せないのですが、それでも、太陽と一緒にほうき星が写せたというのはすごいことですね。一生に一度の珍しいことだろうと思っています。
(ここで縣店主、白いコピー用紙を手に持って登場・・・マックノート彗星のある辺りで、スクリーンの上にかざし、小刻みに揺らして、彗星の光が際立つように工夫する。)
縣:これ、ほら、見えるでしょ?
小野:あ・・・スゴイ!さすが!わかりますね〜。
飯島:ちょうど、太陽と反対の方向に尾が伸びているのがわかりますね。
小野:皆さん。わかりますか?あ、縣さん、もう一回。(さらに画面をクローズアップにしたところで、縣店主、再度コピー用紙をユラユラ・・・参加者から、おぉ〜!!と感嘆の声)縣さん、ありがとうございました!!飯島さん、この彗星が青空の中でも見えたんですか?
飯島:見えていました。普段、星を見に行くときの双眼鏡で見たんですが、太陽が雲に入って遮られた時に・・・そうじゃないと、目玉焼き作っちゃうので・・・太陽の周辺を探したんですね。そうしたら、青空の中に金色に輝くほうき星を見つけて・・・きれいでしたね〜!!
小野:これは・・・飯島さんの写真ではないのですが、インターネットに載っていたマックノート彗星で、オーストラリアで撮られたものです。(アストロアーツ・画像投稿ギャラリー http://www.astroarts.co.jp/gallery/comet/c2006p1/index-j.shtml )
飯島:(オーストラリアでの映像を指して)この状態ですと、日本だと、彗星の方が太陽よりも先に沈んでしまうんですよね。
小野:北半球でも、緯度の高いところだと、太陽が沈んだ後に、尾の名残のようなものが、面白い形で見えたりするようです。この写真でも、ほうき星の頭の部分が沈んだ後に、尾の部分が光状に広がって見えています。これは、ダストの尾なんですね。よく言われるダストの尾は先ほどの写真にある、11時の方向にオレンジ色っぽく見えているものがそうですが、この尾とは別に、こっちの方に筋のように見えているものがあって、これは「シンクロニックバンド」と呼ばれています。実は、このシンクロニックバンドはどうして見えるのかはよくわかっていないのですが、すごく明るい彗星が来た時には、シンクロニックバンドという光の筋が見えることがわかっています。97年に近づいたヘールボップ彗星でも見えていました。こちらの写真だと、もう少しはっきり見えますね、さっきの写真よりも空が暗くなっていますし、露出もかけています。ちょっとオーロラみたいな感じですね。これが今、オーストラリアで見えているマックノート彗星です。日本だともう、見るのが難しくなっていますが・・・。
飯島:こうなるとわかっていたら、旅行の計画を立てたのにな〜と思いますね。
小野:縣さん、来週お休み取ってもいいですか?(笑)オーストラリア旅行に行きたくなってしまいました。南半球へ行けば、この、すごく明るい彗星が見えるのか、と思うと行きたくなりますね。この彗星は、見つかったのが2006年の8月上旬で、オーストラリアのマックノートさんという人が見つけましたが、こんなに明るくなるとは誰も思わなかったんですね。太陽に近づく時にはもう、バラバラになっているんじゃないかと言われていましたが、こういう予測できないところがある、というのが自然現象の面白さです。 |