小野智子さん小野 智子[ おの ともこ ]
 
国立天文台天文情報センター

1968年青森県生まれ。94年より4年間、兵庫県立西はりま天文台公園に勤務、観望会を通して多くの人に星空の魅力を伝える。98年より現職、天文学の研究成果の広報と教育普及の仕事に従事。星空・天体の解説記事やエッセイ等の執筆も。

飯島裕さん飯島 裕いいじま ゆたか

フリーカメラマン

1958年埼玉県生まれ。69年アポロ11号月面着陸の時初めて天体望遠鏡を覗く。72年ジャコビニ流星群の大出現が予想された頃から星の写真を撮り始め、現在に至る。月刊天文誌「星ナビ」(アストロアーツ)に星空の写真とともにエッセイを綴る「銀ノ星」を連載中。

今日のホスト、ゲストのご紹介

縣:こんばんは。アストロノミー・パブへようこそ。店主の縣(あがた)です。このアストロノミー・パブ、最近はとても人気があって抽選になってしまい、2・3回に1回しか当たらない、ということになっています。ここに居ること自体がたいへんなんですよね〜ご迷惑をおかけしています。今宵もまた、天文に関する楽しいトークと、ゲストとのナマの会話をお楽しみいただければと思います。
 さて、今日は「美しい星空を追いかけて」ということで、国立天文台普及室の小野智子が、フリーカメラマンの飯島裕さんをお迎えしてのトークになります。入り口のところに写真が何点か飾ってありましたね?この横の壁にもあります。それから皆さんのお席にも1枚ずつ、飯島さん撮影の写真がプレゼントされて、なかなか心憎い演出になっています。絵柄が何種類かあるようですよ・・・今のうちに好きな写真に取り替えてください。(笑)
 それでは、小野さんと飯島さんにご登場いただきましょう。お2人、どうぞ!

小野:こんばんは。国立天文台天文情報センター普及室の小野智子です。いつもスタッフとして記録写真を撮っている側なので、今日はこちらに座っていてちょっと緊張しています。よろしくお願いします。

飯島:飯島です。私もいつも撮る側なので、こういう席にすわると緊張します・・・よろしくお願いします。

小野:今日のゲストの飯島さんはフリーカメラマンですが、特に星の写真、星を中心とした風景のすてきな写真を撮っていらっしゃいます・・・すごく、詩情あふれる写真で、私は飯島さんの写真、すごく好きなんですが・・・

飯島:ホメすぎです。(笑)

小野:後でも詳しくお話しますが、星が好きな方はこういう、月刊の天文雑誌をご覧になったことがあるかもしれません。こちらのアストロアーツ社で出している月刊「星ナビ」という雑誌では、「銀ノ星」という連載を持たれていて、飯島さんの作品に加えて、文章も書かれていています。45回も続いている連載です!


美しい星空を追いかけて

店主の縣さん

マックノート彗星が(南半球で)明るい!

小野:さて、皆さんご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、今、すごい彗星が来ていて・・・ほうき星ですね。マックノート彗星っていうんです。あまり新聞に載ったりしていないので知られていないのですが、明るい彗星です。ただ、太陽の近くを通っているので、望遠鏡で見たりするのは難しいのです。今、南半球でオーストラリアなどが見やすいんですよね?日本でも、見るのは難しいですが、先週あたり、見えていました・・・。【ここで、プロジェクタトラブル】ちょっとお時間をいただいて・・・じゃ、飯島さん何か繋いでいてください。

飯島:わかりました。僕はですね、だいたい初めて会った方には、星とか写真のこととかはさておいて、「先生!身長何センチあるんですか?」って聞かれることが多いですね(笑)・・・実はちゃんと測ったことはないんですが、多分、188センチくらいあると思います。ちょっと前まで日本で一番大きかった岡山の望遠鏡の口径と同じくらいです。先日、その岡山の天文台へ行った時にミラーの前に立たせてもらって、「あ、ちょうど同じ!」と思って嬉しかったです。
 今はカメラマンとして星の写真を撮っていますけれど、もともとは私は星を見るのが好きなんです。中学生くらいの時にジャコビニ流星群が来る、というので大騒ぎになったことがありました。その時に、「もしかしたら、写真に写るかも」と思って、叔父から一眼レフを借りたのが、「星の写真を撮りたい」と思った、そもそものきっかけになっています。そのころは、今みたいにデジカメではないし、フィルムも白黒ですが、感度のいいものはなくて、何より、星の写真を撮ろうと思ったら、自分でフィルムを現像しなければならなかったんですね。それで、写真の技術も自然と覚えることができました。写真を撮って、自分で現像して、自分で焼付けをして・・・ということになると、写真って意外とお金がかからないんですね。写真屋さんに出すと高いですけれど・・・で、そういう風にして、いろいろな写真が撮れるようになってくると、写真ってなかなか面白いなと思い始め、知らない間に今のような仕事をするようになってしまいました。
 実際には、星の写真は実は、あまり商売にならなくて、ですね(笑)・・・需要もあまりないですし、でも、自分としてはそこから離れたくない、というか、離れるわけにはいかない、と思っています。普段の仕事では、インタビューの写真を撮ったりとか、企業のPRの写真を撮ったりとか、あるいは雑誌の取材で天文台に行ったりとか、いろいろな研究室に伺ったりとかの仕事が多いですが、そういう中で、山の方に出かけて行って星の写真を撮る時が、自分で写真を撮っていて一番楽しい時間です。【プロジェクタ、まだ復旧せず】

飯島:写真があればけっこう話すことがあるんですけれど、話すのは素人なので・・・しかも、こういうすてきな方が隣にいると、何をしゃべって良いんだか(笑)。

小野:いや、けっこうお上手ですよ?(笑)

飯島:いえいえ・・・

小野:今のお話ですと、もともと写真を撮っていて星を撮ってみようかな、と思ったのではなくて、星を見たくて写真を始めた、っていう感じなんですね?

飯島:そうです。星が見たくて、星の写真を撮り始めました。星を撮るようになって最初に面白かったのは、目には見えないものが写真には写せる、と言うことです。目では瞬間の光しか捉えられないですが、写真では、1分とか5分とか10分とか、光を蓄積させることができるので、目に見えないものが写真に撮れて、写ってくるんですね。そういうところが最初は面白くて。それから、天体写真というのは、昼間の写真とは違って露出を測るわけにはいかず、若干ですけれど普通の写真よりは難易度が高いような気がするんですよね。今ですと、普通の写真は自動で押せば写っちゃいますけれど、いまだに、星の写真はそういうわけに行きません。写真を撮る技術的なチャレンジの、し甲斐があると思っています。写真の雑誌にはだいたいフォトコンテストと言うページがあって、写真を始めたころは、自分の写真を投稿して、入選したりするとすごく嬉しかったですね。

小野:実は、先ほどお話したマックノート彗星。太陽にすごく近づいているために、私たちの地球から見ると、太陽の向こう側からやってきて、太陽のこっち側を通って、南半球で見えるようになって、また戻って行く、という軌道のほうき星です。ですから、ほうき星が遠い時も近い時も、常に太陽の近くに見えているので、ほうき星を見慣れている人は比較的探せるんですが、慣れていない人だと、双眼鏡でみてみようかな〜と思っても、太陽が視野に入ってしまって危険ですので、見るのが非常に難しいのです。いま、お見せしようとしている写真も、飯島さんが先週の日曜日にお天気がいい時に撮影したものですが、すごく微かに見えるので、ここだよ、と教えてもらえないとわからないかもしれません。

先ほどのお話にもありましたが、飯島さんはジャコビニ流星群の時に写真を撮ろうと思ったのが、天体写真を撮り始めたきっかけなんですよね?

飯島:そうです。中学生でしたね。

小野:その時は星は撮れましたか?

飯島:その時は、そもそも晴れませんでした。徹夜して待ち構えていたんですけれど、ずーっと曇っていたので、写真に撮る以前にアウトでした。 【プロジェクタ復旧】

小野:プロジェクター直りましたね! では、(マックノート彗星の)写真を見ていただきましょう。(写真A)これは14日の夕方ですね。撮影場所はどこですか?

飯島:場所は埼玉県の吉川市です。江戸川の堤防の上なんですけれど、実はこの雲の中に富士山があるんですよ。富士山と太陽とほうき星を3つ一緒に撮ろうと思って行ったんです。この日はとてもお天気が良くて、雲がほとんどなかったんですが、ここだけ雲があって、富士山は見えませんでした。土手の上なので散歩のおじさんとか歩いてくるんですけれど、「今日はダメですね〜」とか「富士山、見えませんね〜」とか言われて。でも、「いやいや、本番はこれからなんですよ」「何かあるんですか?」「いや、実はほうき星が・・・」みたいな話をしました。この日の昼間、太陽が雲に隠れたときに双眼鏡で見たら、青空の中にほうき星が見えたんですね。ものすごく明るい・・・確かマイナス5等星でしたっけ?

小野:そうですね、一番明るい時でマイナス5等星です。

飯島:宵の明星の金星よりも明るく見えるので、昼間の空でも余裕で見えたんですが、この写真の中でどこにあるかと言うと・・・ここですね。

小野:あの、、皆さん、心眼で見てください(笑)!!

飯島:見えないね・・・拡大できません?

小野:拡大ですか・・・ちょっと待ってください・・・・。(PCを操作する)

飯島:ほうき星って、夜の空にしか見えないくらい淡いもので、太陽と一緒に見えるなんてありえないと思っていましたが、生まれて初めて、こんなに明るいほうき星を見ました。最近で明るいのと言えば、ヘール・ボッブ彗星とか、その前だと百武彗星とか、明るくて大きい彗星がきましたけれど、やっぱり暗い空じゃないと写真には写らなかったのですが、普通の景色を撮るのと同じ露出時間で彗星の本体が写ってしまうというのは、ちょっと驚きでした。拡大できそうですか?

小野:大丈夫だと思います。

飯島:ズームアップ!!あ、少し白〜くアタマの部分が・・・。

小野:すいません、リハーサルをしていないので・・・ココですが・・・言われないとわからないですね?

飯島:白く、ぽつっと写っているんですが。立派に尾を引く状態では写せないのですが、それでも、太陽と一緒にほうき星が写せたというのはすごいことですね。一生に一度の珍しいことだろうと思っています。

(ここで縣店主、白いコピー用紙を手に持って登場・・・マックノート彗星のある辺りで、スクリーンの上にかざし、小刻みに揺らして、彗星の光が際立つように工夫する。)
縣:これ、ほら、見えるでしょ?

小野:あ・・・スゴイ!さすが!わかりますね〜。

飯島:ちょうど、太陽と反対の方向に尾が伸びているのがわかりますね。

小野:皆さん。わかりますか?あ、縣さん、もう一回。(さらに画面をクローズアップにしたところで、縣店主、再度コピー用紙をユラユラ・・・参加者から、おぉ〜!!と感嘆の声)縣さん、ありがとうございました!!飯島さん、この彗星が青空の中でも見えたんですか?

飯島:見えていました。普段、星を見に行くときの双眼鏡で見たんですが、太陽が雲に入って遮られた時に・・・そうじゃないと、目玉焼き作っちゃうので・・・太陽の周辺を探したんですね。そうしたら、青空の中に金色に輝くほうき星を見つけて・・・きれいでしたね〜!!

小野:これは・・・飯島さんの写真ではないのですが、インターネットに載っていたマックノート彗星で、オーストラリアで撮られたものです。(アストロアーツ・画像投稿ギャラリー http://www.astroarts.co.jp/gallery/comet/c2006p1/index-j.shtml )

飯島:(オーストラリアでの映像を指して)この状態ですと、日本だと、彗星の方が太陽よりも先に沈んでしまうんですよね。

小野:北半球でも、緯度の高いところだと、太陽が沈んだ後に、尾の名残のようなものが、面白い形で見えたりするようです。この写真でも、ほうき星の頭の部分が沈んだ後に、尾の部分が光状に広がって見えています。これは、ダストの尾なんですね。よく言われるダストの尾は先ほどの写真にある、11時の方向にオレンジ色っぽく見えているものがそうですが、この尾とは別に、こっちの方に筋のように見えているものがあって、これは「シンクロニックバンド」と呼ばれています。実は、このシンクロニックバンドはどうして見えるのかはよくわかっていないのですが、すごく明るい彗星が来た時には、シンクロニックバンドという光の筋が見えることがわかっています。97年に近づいたヘールボップ彗星でも見えていました。こちらの写真だと、もう少しはっきり見えますね、さっきの写真よりも空が暗くなっていますし、露出もかけています。ちょっとオーロラみたいな感じですね。これが今、オーストラリアで見えているマックノート彗星です。日本だともう、見るのが難しくなっていますが・・・。

飯島:こうなるとわかっていたら、旅行の計画を立てたのにな〜と思いますね。

小野:縣さん、来週お休み取ってもいいですか?(笑)オーストラリア旅行に行きたくなってしまいました。南半球へ行けば、この、すごく明るい彗星が見えるのか、と思うと行きたくなりますね。この彗星は、見つかったのが2006年の8月上旬で、オーストラリアのマックノートさんという人が見つけましたが、こんなに明るくなるとは誰も思わなかったんですね。太陽に近づく時にはもう、バラバラになっているんじゃないかと言われていましたが、こういう予測できないところがある、というのが自然現象の面白さです。

 

 

 

 

マックノート彗星
(写真A)↑クリックすると大きくなります。

 

フリーカメラマンの飯島さん

 

国立天文台の小野さん

 




ヘール・ボップ彗星と百武(ひゃくたけ)彗星

小野:他にも、ほうき星の写真をいくつかご紹介したいと思います。こちらはどこで撮られたのですか?

飯島:これは、群馬県の二度上峠というところで、浅間山のそばなんですけれど、ヘール・ボップ彗星です。昇ってくるところです。朝焼けの状態で、このときは、はくちょう座の下の方にいたんですよね1997年の3月ごろです。

小野:この後すぐに、低くなって、その後、夕方の空に見えるようになりました。4月くらいによく見えるようになっていましたね。

飯島:大きさは多分、このくらいでした・・・・おっ、これは小野さんの写真ですね!!(写真B)

小野:そうです(笑)これは私が撮った写真です。私は、国立天文台三鷹に来る前は、兵庫県の西はりま天文台にいたんです。その時に、これは4月29日の夕方だと思うんですが、西の空に見えたほうき星を天文台の建物と一緒に撮ってみました。天文台の仕事って、来たお客さんに星を見せるお仕事なので、夕方の時間帯は、観望会の準備ですごく忙しいです。だいたい職員2人で観望会にあたっていたんですが、もう、毎回、今日はどっちが写真を撮りに行って、どっちが準備するんだ・・・っていう駆け引きをしながら、「ゴメン!今日は私に撮らせて!」(笑)と言って、ちょっと出て、三脚立てて写真撮って、また戻って仕事して、ということをしていました。

これはまた、少し趣の違った写真ですが?(写真C)

飯島:これは私が、撮影をしているところを撮影した写真ですね。手前にあるのはカメラが2台ついている小さい赤道儀で、私はいつもこれで写真を撮りに行っています。百武彗星が上の方に、頭がここにあって、尾がこちらの方に伸びている、というところです。八ヶ岳の麓、富士見町の畑の中で、よく写真を撮りに行くところがあるんですが、行って見たら、先に写真を撮りに来ている人がいて。後ろの大きな天体望遠鏡の持ち主がそうなんですけれど、星の写真を撮りに行くと有名な撮影地というのがいくつかあって、よく会う人がいるんですね。声を聞くと「あ〜、また会いましたね〜!!」なんて話をするんですが、夜に会って朝になる前に皆帰ってしまうので、誰も顔が判らない(笑)ということもあります。

へール・ボップ彗星
(写真B)
百武彗星

(写真C)

流星群

小野:あ、今度は流れ星の写真ですね。

飯島:(写真D)これはですね。群馬県の赤城山の山頂に小沼という火口湖があって、円形の小さな湖なんですけれど、そのほとりに、ペルセウス座流星群という、8月のお盆休みごろに活動する流星群の写真を撮りに行った時の1枚です。右上の方に流れ星が写っているんですが、左側の大きいのはお月様です。オリオン座がちょうど昇っているところです。8月なので、明け方近くになると、冬の星座が登ってくるような状態になっています。向こう側にキャンプをしている人がいて、花火をやったりしていましたが(笑)、私は空の花火を見ていました。流れ星ってなかなか写真に写らないんですね。まず、どこに出るかがわからない。それから、さっきも言いましたが、星を撮る時は光を蓄積することができますが、流れ星は一瞬にして飛んでしまいますので、それができません。よっぽど明るい流れ星じゃないと写真には写りません。ここにオリオン座の一等星のベテルギウスがあって、同じくらいの明るさに写っていますけれど、流れ星の方は一瞬にして通り過ぎていますので、実際に空を飛んでいるときは、この一等星よりも数倍明るく見えたと思います。でも、私、これは見なかったんですよね。(笑)

小野:別の方を見ていたんですね?

飯島:そうそうそう・・・出ないかな〜と思っていて、後から現像してみたら、写っていてびっくりしました。この日は一晩中、何枚も撮ったんですけれど、写っていたのはこれ1枚だけでした。

縣店主:この流れ星、湖面には映っていないんですか?オリオンは映っているようですが・・・?

飯島:そうそう、オリオンと月は湖面に映っているんです。で、流れ星も映ればいいな〜と思っていたんですが、やっぱり、映らないですね、流れ星は。

小野:一瞬ですと、フィルムには残らないんでしょうね。

飯島:(湖面を指して)ここに、流れ星が映っていたら、かっこいい写真ですよね〜!!(笑)

小野:これは私が撮った写真です。(写真E)98年のしし座流星群の時です、もう少し画角が広かったんですけれど。

飯島:これは魚眼レンズですね?

小野:対角魚眼です。こちらはオリオン座が西に沈もうとしているところで、こちらがしし座ですね。私は流れ星の写真を狙って、撮ろうと思って撮れたのはこのときが初めてでした。フィルムを何本も使ってずーっと撮っていて、あ〜今日はもうダメだな、そろそろいいかな〜と思っていた時に、音は本当はしないんですけれど、「シュッ」と言うカンジで、すごく明るい火球・・・火の球とかいて「かきゅう」というものですけれど、これはすごく明るかったです。これ、ご覧になりましたか?

飯島:私はですね、このときは同じ日の夜に、富士山のふもとの朝霧高原にいたんですね。もちろん、しし座流星群の出る日だったので写真を撮りに行っていたんですけれど、やっぱりずっと出なくて、もう今日はだめかな〜と思って。こっちの方に向けてたんですけれど、ダメだ!と思って向きを変えて、支度をしていたら、一瞬まわりがパッ!と明るくなって、「うわっ!何だろう?」と思って見たら、さっきまでカメラを向けていた位置に、流星が流れた後に残る「流星痕」があって、あーーーっ!って・・・もうちょっと向けておけば良かったですね。このときは、写真を見てもわかるとおり、すごく明るくて、一瞬、だれかフラッシュ焚いたのかと思ったくらいでした。

小野:私はこの時、カメラ2台使っていたんですけれど、1台が魚眼で・・・

飯島:私は!カメラ3台使っていました!!だけど、全部違う方を向いてて・・・

小野:3台でもだめでしたか・・・でも、この写真はすごいですよね。

飯島:(写真F)こちらは、2002年の時の、しし座流星群の大出現の時です。この時は本当に大出現で、流れ星が飛んでいない時がない、っていうくらいで。空中に流れ星が流れていて。

小野:私、この年は、残念ながら撮れなかったんです。あんなに流れたんですけれど、すごく明るい星は少なくて。それに実は、気が付いたらレンズに露が付いていて・・・だから、本当に運ですよね。

飯島:星の写真の敵は、雲と、寒さと、夏だと蚊、あと夜露ですね。露がレンズに付いてしまうと全然写らなくなってしまうので、レンズをヒーターで暖めるんですけれど、カイロとかを使ってね・・・きれいな写真をとるには、様々な努力が必要ですね。

ペルセウス座流星群
(写真D)

98年のしし座流星群
(写真E)




(写真F)

天の川

小野:これは天の川ですね。

飯島:夏の天の川です。この辺が、はくちょう座で。これがこと座のベガという1等星で、織姫さんですね。これがわし座のアルタイル・・・彦星さんです。これは肉眼でもよく見える場所で、岩手県の北上山地の中ですね。やっぱり、空が暗くないとこういう天の川はなかなか見られません。ただ、写真に撮ると、真ん中の暗黒体がこういう風にくっきりと写るんですけれど、実際に目で見るとこういう風には見えません。最初にも言いましたが、目で見るよりもはっきりと写る、見えないものが写る、というのが写真の面白さです。・・・で、こういう写真を見ながら、天文学のプロの先生方が宇宙のことについていろいろと研究していることを思い浮かべると、それがそれがまた面白かったりします。

小野:私は大学院の時に銀河系の中心の星の研究をしていました。この写真に写っているのとはちょっと違う場所ですけれど「いて座」とか「さそり座」の辺りを研究していて、その近辺の写真が出てくると「ここの暗黒帯の形が!」とか、どうしても研究対象として見てしまうんですね。今はもう、そのへんの研究はしていないので、自然に、きれいな天の川だな〜と思って見られますけれど。

飯島:あぁ、なるほど。ちょうどその、天の川の中心方向の写真が出ました。(写真G)

小野:これ、さそり座ですよね。

飯島:これは八ヶ岳の北の方の、臼田町・・・今は違うんですかね?

小野:今は佐久市ですね。

飯島:佐久市ですか!変わっちゃったので困りますよね。その八ヶ岳の中腹あたりから撮ったんですが、これは下半分が、町の明かりで天の川が飲み込まれてしまっています。この辺りの光が141号沿いの町の明かりですね。こっち側の光は関東平野の光です。

小野:佐久の辺りってけっこう明るいんですよね。今は長野新幹線が通って、佐久平という駅ができたこともあって、臼田の町のあたりから佐久平まで行く間の道もとても整備されて、両側にホームセンターとか、スーパーとかできて。

飯島:食料の買出しとかには便利なんですけれどね。

小野:コンビニも増えましたしね。

飯島:学生の頃に野辺山とか八ヶ岳近辺によく写真を撮りに行きましたが、天の川の暗黒帯がすごくよく見えて、天の川の光自体もビシッと、地平線まで見えていて。その頃の野辺山や八ヶ岳あたりは空がとても良かったので、天体写真撮る人の憧れの場所だったんです。でも今ではこんな状態になっちゃって、なかなか、すっきりとしたものが見えなくなってしまって残念です。

小野:こちらの写真は、また、少し違いますね。

飯島:これは、オーストラリアで見た天の川です(写真H)。1つ前の写真と同じ場所を撮ったものです。日本で撮ったものは地平線がこっち向きになっていましたが、南半球では、こっち向きで、ちょうど、90度くらい傾いている感じですね。

小野:そうですね。緯度が同じくらいなんですね。

飯島:さっきの場所でも天の川が、何十年か前には、これと同じように見えていたんです。だけど今は、日本ではもう、こういう天の川は見られなくなってしまって・・・。でも、オーストラリアはさすがに、空気は澄んでいるし周りも暗いです。これはちょうど天の川が東の空から昇ってくるところなんですが、天の川の中心がとても明るいので、その光で影ができるんですね。自分の影が、天の川の光で、西の方に延びて見えているというのが、凄かったです。

小野:月が明るいと月で影ができるとか、金星が明るいと金星でも影ができる、とかありますけれど、天の川で影ですか!だいたい日本で、こんなに天の川がきれいに見えることってないですよね。

飯島:そう、でも、ここでは一番明るいのがこの、天の川の中心だったんです。

小野:この赤い線は何ですか?

飯島:これは田舎の飛行場で撮ったのですが、近くのアンテナの鉄塔の明かりですね。天体を追尾して撮っているので、地上にあって動かないものが逆に、動いたような形になって写っています。

夏の天の川
(写真G)

オーストラリアの天の川
(写真H)

星景写真

小野:次の写真もなかなか面白いですね、絵のような。(写真I)

飯島:これも、同じような場所で撮りました。木の向こうに天の川が昇って来るところなんですが、ちょっと、こういうふうに木でも入れると、科学的な感じからぐっと情緒的な感じになりますね。

小野:先ほど、最初に見ていただいた天の川の写真は、空の高いところなので、天の川だけですが、次の、こんなふうにちょっと町の明かりが入ってはいますが、日常の風景など、地上の景色があって、そこに風景の一部として星空がある、というのがいいですよね。

飯島:写真を見た人の感想では、よく、「和みますね」とか「癒されます」とか言われます。

小野:・・・星の景色の写真、と言う意味で「星景写真」という言い方をし始めたのはこの10年くらいでしょうか?私も小さい時から星が好きでしたが、写真を撮ろうとはあまり思わなくて、誰が撮っても同じじゃないかなと思っていたんですが、こういうふうに景色をいれて撮っているのをみると、すごく素敵だな〜と思いますね。
(写真J)
これはどこですか?

飯島:八ヶ岳の一部なんですが、沈んでくる星で、雪雲がこう飛んでいて。目で見るとこういう風には見えないですが、写真に撮って、光の筋に星を写すと、そこに流れている時間を感じたりとか、山があって雲があって、向こうに星があると奥行きを感じたりとか、そういうことが伝えられるといいな、と思います。

 

木の向こうにある天の川
(写真I)

八ヶ岳の星
(写真J)

四光子の記憶

小野:そろそろお時間なんですが、最後に、見ていただきたいものがあります。先ほど「星ナビ」という雑誌をご紹介したんですが、飯島さんが連載されているページ・・・「銀ノ星」です。タイトルかっこいいですね。「四光子の記憶」というサブタイトルですが?

飯島:(壁の写真を指して)そのへんにある写真は、デジタルカメラで撮った写真なんですが、ずっと昔からフィルムで撮ってきた写真があって、撮っているものは、同じようなものが多いのですが、銀塩のフィルムですとデジタルと全然違うと思うことがあります。
  それはどういうことかと言うと、宇宙の何光年も彼方の星から発した光が地球まで来るわけですよね。で、ものすごく遠いので、ものすごく光も薄まってしまって弱い光なんですけれど、たまたま直径2〜3センチのレンズにその光子が飛び込んできて、それがフィルムを感光させる。フィルムを感光させるとそこにその光が固定されるわけですよね。フィルムの上に銀の粒子ができる。何光年も飛んできた光子が銀の粒子を作って固定されて映像として残る、っていうことが、デジタルとは違って、フィルムで撮る星の写真のすごいところなんじゃないか、と思っています。
  「四光子の記憶」っていうサブタイトルをつけているんですが、銀を感光させるのに光子4つ分のエネルギーが最低限必要だ、ということを専門家の先生から聞いたことがあるんです。4つの光子が宇宙からやってきたのが積み重なって、星の写真が写せるというのが、このサブタイトルの数字の意味です。そのフィルムを薬品で現像して、また、ちょっと魔術というか、怪しげな操作が必要なところが、写真の面白いところというか、フィルムで撮ることに意味があるな、と思ってずーっとやっていることなんです。

小野:モノクロのフィルムで星空の写真を撮って現像すると、白黒反転しますよね。ほとんど透明で何も写っていないんじゃないかと思うのですが、よーく見ると、何億光年の彼方から飛んできた光が固定されて、銀の像になったというのが天体写真のすごさですよね。ものすごく確率の低い偶然がフィルムの上にあるんだなと思うと、ちょっと感動しますね。

飯島:フィルムがなかったら、その光は地面にぶつかって消滅してしまって終わりです。フィルムにたまたま固定されたことで、宇宙の絵が残る、っていうことが写真を撮っていて面白いな、と思うことです。そしてその写真を天文学者の先生が考えた宇宙のいろいろなことを考えながら見ると、写真にも意味があるな・・・と思います。それで写真をやめられずに、星の写真を撮り続けています。

小野:お話の続きはまた、飲んだり食べたりしながらもできると思いますので、2人の対談はここで・・・ありがとうございました。(拍手)

縣:お2人にあらためて、拍手をお願いいたします。ありがとうございました。

天文について熱く語っています


星ナビでの連載ページ

パブタイム!


2007-1-20